血栓症とは、血栓(血の塊)によって血管が詰まってしまう病気です。深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳梗塞、心筋梗塞など、これらは全て血栓症ですが、詰まった場所によって症状が異なります。適切な治療を行わなければ、命に関わる事があります。
「ピルを飲むと血栓症になる」「ピルは血栓が怖いから飲まない」という話を聞いた事があるかもしれません。これらの意見は正しいのでしょうか?低用量ピルを服用すると、どのくらいの確率で血栓症が起きるのか見てみましょう。
“低用量ピルを服用していない女性に血栓症が発生する確率:1万人あたり1-5人
低用量ピルを服用している女性に血栓症が発生する確率:1万人あたり3-9人
妊娠中に血栓症が発生する確率:1万人あたり5-20 人
分娩後12週間に血栓症が発生する確率:1万人あたり40-65人”
出典 日本産婦人科学会
ピルによって血栓症を起こす人よりも、妊娠・分娩に伴って血栓症を起こす人の方がだいぶ多い事がわかります。つまり「ピル服用は、妊娠・出産よりも安全である」と言えます。
また、血栓症を起こしたからといって、すぐに命に関わるわけではありません。仮に血栓症が起きたとしても、非常に高い確率で救命可能です。どのくらいの割合で死亡するのか、見てみましょう。
“静脈血栓症発症により、致死的な結果となるのは100人あたり1人で、低用量ピル使用中の死亡率は10万人あたり1人以下と報告されています。”
出典 日本産婦人科学会
日本における交通事故死亡者数は1年あたり約1万人です。日本の人口は約1億2500万人ですから、交通事故で死亡する確率は1万人あたり1人以下です。
ピルで死亡する確率:10万分の1以下
交通事故で死亡する確率:1万分の1以下
つまり「ピルの服用は、通勤や通学よりも危険性は低い」と言えます。
*注釈*上記の数字(血栓症が発生する確率)は白人女性を対象としたデータです。血栓症の発症率には人種差があります。日本人女性は白人女性に比べ、血栓症を発症する確率が低い事が知られています。従って、実際のリスクは上記よりも更に低いです。
ピルによって血栓症が起こる確率は非常に低いので、そこまで神経質になる必要はありません。万が一発症した際に備えて正しい知識を身につけておいて損はありません。
静脈血栓症の症状として、以下のものが挙げられます。
これらの症状を感じた場合には、直ちに救急外来を受診しましょう。(婦人科では治療を行うための施設がありません。)
もちろん、あります。「ピル」というカテゴリーには様々な製品があります。含まれている成分、分量がそれぞれ異なるので、当然の事ながら、トラブルを起こす確率も製品によって異なります。
一つの例として、当院で取り扱っている製品の場合、過去20年間に血栓症を起こして亡くなった方はゼロでした。(蛇足ながら当院は低用量ピル処方数15年連続日本一ですので、服用者数は数十人や数百人などというレベルではありません。)
いいえ、違います。低用量ピルの服用によって血栓症が起こるとすると、大抵の場合、それは服用開始から3~4ヶ月以内です。それより長く服用することで、発症リスクは低下します。
上述の通り、「ピル服用は、妊娠・出産よりも安全」なのですが、血栓症の予防方法を知っておくに越した事はありません。
一般的に血栓症の予防策としては以下が挙げられます。
1.水を飲む
脱水状態だと、血管内で血が固まりやすくなります。1日に1.5リットル以上の水を飲みましょう。(お茶やコーヒーはカウントしません。)
2.禁煙
喫煙は血栓症の非常に大きなリスクファクターです。ピル服用の有無に関わらず、禁煙が最善策です。
3.体を動かす
運動不足は血栓症のリスクファクターです。毎日30分以上、歩きましょう。
4.減量
肥満は血栓症のリスクファクターです。統計上、BMI(Body Mass Index)22の状態が最も病気に罹りにくいとされています。
BMI(kg/㎡)=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)